教職大学院の特徴は、第一に、修士論文を課されない点です。もちろん教職大学院でも様々な成果物をまとめます。例えば、西川ゼミの場合は学会誌論文を書きます。しかし、既存の修士と違って、決まった成果物にこだわらず、その人にあった成果物をまとめることが出来るという特徴があります。従って、修士論文相当の成果物をまとめたければ、それもありです。しかし、それ以外でもOKという点が違います。
 そして、「上越教育大学の教職大学院」の特徴は、上記以外にもあります。第一に、協働力を基本的なコンセプトの一つとしています。若い学生さん、そして他県の教師と一緒に学べることがカリキュラムで保証されているのです。多くの教職大学院では、学卒院生さん用のカリキュラムと現職院生さん用のカリキュラムが別です。若い人と交わることによって、多くを学びます。特に、これから自分の実践力向上よりも、周りの人たちの実践力向上の仕事しなければならない年齢の人には、若い人と関わることは絶対に必要です。何しろ、年齢バランスの崩壊で、三十代中盤になっても、今までの学校で、常に若手の位置にいたというひとは少なくありません。その結果、人について行くことは経験が多くとも、人を引っ張っていくという経験が十分でない可能性があります。若い人と関わることによって、自分の教師の最初の志を思い出し、第二の青春を経験することが可能です。
 第二に、連携協力校との充実した関係の中で、じっくりと徹底的に実践し考えることが出来ます。学校現場では日々実践です。しかし、忙しすぎて何も考えられないのではないでしょうか?上越教育大学では、ほぼ4ヶ月以上、連携協力校に入ります。しかし、入りっぱなしではありません。週の曜日を決めて、実践校に行く日と、学校で考える日があります。さらに、一人一人の問題を単独で解決するのではなく、5人程度の学卒院生や現職院生のチームを構成し、チームで解決します。その結果、じっくりと徹底的に実践し考えることが出来ます。それが可能なカリキュラムと、良好な連携協力校「群」を構成しています。
 第三に、(実は第一に)我が同僚の質の高さです。本当に誇りです。我々の殆どは、小中高での教員経験があります。同時に学術研究の業績もあります。私もそうですが、日本で数少ない、教育研究で博士の学位を持っている人もいます。多くの大学では、実践は実践担当の先生が教え、理論は学術担当の先生が教え、それを学生さんが融合せよと求められます。しかし、本学の教職大学院では、実践と理論が融合した先生が学生さんに教えるのです。 そして、実に仲が良い。専攻会議では笑いが絶えませんし、飲み会の参加率はほぼ100%です。日本で一番仲の良い、大学の教員集団だと自負しています。その基盤は互いへの尊敬です。
 おおざっぱに2年間の流れを言うと、講義は1年目の前期で殆どとれます。そして、9月~12月の4ヶ月間、教育実習です。実習と言っても学部の実習とは全く違います。週のうち2~3日実習に入り、あとの日は大学でみんなと議論したり、分析したりです。つまり行きっぱなしではないのです。それを4ヶ月間続けます。 そして、実習はチームで入ります。つまり、一人で問題を抱え込まないですむのです。そして、実習生という立場と言うより、学校の仲間として入ります。だから忘年会にはもちろんよばれます。うちの学生が言っていましたが、生まれてから一番楽しい飲み会だそうです。そして、自分の授業能力の向上はもちろんですが、学校がどのように良くなるかを考え、計画し、実践するのです。それが学卒の二十代前半の兄ちゃん、姉ちゃんもやるのです。当然、現職院生の方は、その上を行くことがテーマとなります。 さて2年目ですが、前期に授業は何もありません。そして、9月から12月に2度目の実習があります。1年目の経験をふまえて実習に行くのです。 つまり、1年目の1月から2年目の8月まで、何もないのです。なぜそのようにしたかと言えば、色々な意味があります。 第一に、学卒院生に関しては、受験勉強に集中できるようにしているのです。また、自分の持っていない免許状をとるために、学部の授業を取りやすくしているのです。上越教育大学の教職大学院は何らかの免許を持っていることが入学資格です。でも、小中高の一つだけしか持っていない人は、足りない免許を取ることが出来ます。また、中学校の別の教科の免許状を取得することが出来ます。 第二に、現職院生さんにとってです。現職院生さんの場合、受験勉強は必要ありません。それをどう活用するか、です。実は、現任校の校長先生が認めた場合は、自分の学校で実習が出来るのです。だから、1年目の1月から修了するまでの1年と3ヶ月の殆どを、地元で実践することが出来ます。もちろん、議論のために定期的に戻ったり、発表会に参加したりする義務はありますが、基本的に地元で実践できるのです。 じゃあ「14条」とどこが違うのか?そりゃ、じっくりと実践し、じっくりと考えることが出来るのです。上越教育大学の派遣は2年派遣です。従って、現任校で担任を持たせたり、公務分掌をもたせたりすることは出来ません。だから、自分の計画にあった限られた時間を実践するのです。もちろん、自分の実践だけ、というと現任校のみなさんから嫌われますよね。そこは、忙しい同僚がいたら「はい、よろこんで」で手伝います。実習生という戦力が増えるのですから、現任校にとっても願ったり、かなったりです。 ということで、家庭の事情で2年は・・・という方もおられるでしょう。でも、上越教育大学の場合は、それを乗り越えることが出来ます。が、絶対に2年目は現任校で、と決まっているわけではありません。上越でじっくりとやりたい方はそれもありです。ご本人の希望によりです。ご家族と一緒に上越に来て、世帯棟に入る方の場合、子どもが地元の学校に入学したとしたら、2年間はいたいと思うと思います。